お宿の人がみんな僕の事を知ってると思うよって言われて、へ〜そうなのかぁって思ってたら、お爺さん司祭様にこんな事を言われたんだよね。
「ところで、ルディーン君。あの娘らの所へは行かずとも良いのか?」
「そうだ! お姉さんたちに、後で行くねってお約束してたんだっけ」
この宿屋さんはね、食堂に行かなくってもお部屋でご飯を食べることができるんだ。
だからお父さんと二人で来た時なんかはお部屋にご飯を持ってきてもらったんだけど、ニコラさんたちはここに泊まるの、初めてでしょ?
お部屋にご飯を持ってきてもらって、もし嫌いなものが入ってたら困っちゃうもん。
そうならないようにって、今日はみんなで一緒に食堂でご飯を食べる事にしてもらったんだ。
なのに僕が行かなかったらニコラさんたち、お腹が減ってもご飯食べられないじゃないか!
「司祭様。僕、ニコラさんたちのとこ行ってくるね」
「うむ。ではわしはここで少しの間休んでから、食堂に向かうとするかのぉ」
って事で、僕はお爺さん司祭様とお別れして、一人でニコラさんたちのお部屋に行く事にしたんだ。
普通のお家と違ってここは宿屋さんだから、お部屋のドアをコンコンって叩いても中の人に聞こえない事があるんだ。
だからね、ドアの横んとこにひもが付いてて、それを引っ張ると中でベルが鳴るようになってるんだよね。
チリンチリン。
「はっ、はい! 今開けます!」
そのひもを引っ張ってベルを鳴らすとお部屋の中からニコラさんのお返事が聞こえたんだけど、それがなんでかすっごく焦ってるような声だったもんだから、僕は頭をこてんって倒したんだ。
中でなんかやってる時にベルが鳴ったもんだから、びっくりしちゃったのかなぁ?
ガチャ。
僕がそんな事を考えてるとドアが開いて、ニコラさんがそぉっと顔を出したんだ。
「ニコラさん、来たよ!」
だから僕、来たよってご挨拶したんだけど、
「えっ? ああ、ルディーン君だったのか。ああ、緊張したぁ」
そしたらニコラさんが急にその場でへたり込んじゃったもんだから、すっごくびっくりしたんだよね。
「どうしたの? 僕が来るまでに、なんかあった?」
「いえ、何でもないのよ。どうぞ、入って」
心配してなんかあった? って聞くと、ニコラさんは何でもないよっていながらにっこり笑って僕をお部屋に入れてくれたんだ。
「はぁい! わぁ、やっぱり三人で使うお部屋はおっきいなぁ」
「あら、ルディーン君はいつもこの宿を使ってるんじゃないの?」
「イーノックカウに来ると、いっつもこの宿屋さんだよ。でもね、お父さんと一緒のお部屋だから、二人用のお部屋ばっかりなんだ」
『若葉の風亭』はね。一人用と二人用、それに三人用のお部屋しかないんだよ。
だから家族みんなで来た時も、僕とお父さん、それにお兄ちゃんたちは二人用のお部屋に泊まったから三人用のお部屋にはあんまり入った事が無いんだ。
「なるほど、それじゃあ三人部屋はあまり使った事ないでしょうね」
ニコラさんとそんな事を話しながらご飯を食べたりお茶を飲んだりするお部屋を通って、ユリアナさんたちがいるっていうベッドが置いてあるお部屋に行ったんだよ。
そしたらさ、二人がお部屋の隅っこの方の床に座ってたもんだから、僕、びっくりしてニコラさんを見たんだ。
「二人とも、どうしてそんなとこに座ってるの!? 隣のお部屋に椅子あるのに」
さっき通ってきたお部屋、ご飯を食べたりするとこだから当然椅子も机もあるんだよね。
なのに何で二人とも、あんなとこに座ってるの? って聞いてみたんだ。
そしたらニコラさんはちょっと困ったような顔に。
「あのね、ルディーン君。隣にある家具は、上等すぎて落ち着かないのよ」
ニコラさんたちが昨日まで泊まってた宿屋さんはね、木の板だけで作った椅子しかなかったんだって。
でも隣りのお部屋にある椅子は、座るとこと背中が当たるとこに柔らかいなんかの動物化魔物の皮で作ったものが貼ってあるんだ。
だから座るとふわふわして、何か落ち着かないんだってさ。
「それにね、この部屋の床だって、ほら、敷物が敷いてあるでしょ?」
「うん」
「だからね、本当はこの床に座るのも本当はちょっと落ち着かないのよ」
ニコラさんが言う通り、寝るお部屋の床にはぺっどから落おっこっちゃっても大丈夫なようになのか、柔らかいじゅうたんが敷いてあるんだよね。
でもそのせいで、そこに座っててもやっぱり落ち着かないんだってさ。
「だったらさ、ベッドは? ベッドだったら他とあんまり変わんないでしょ?」
だからね、僕、ベッドに乗ってればいいじゃないかって言ったんだよ?
でもそしたらニコラさんが、
「あんな上等なベッド、もし上がって汚してしまったら大変じゃないの!」
なんて言うもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだ。
そりゃあさ、宿屋さんなんだから僕んちにあるベッドよりいいもんを使ってるんだよ?
でも前に冒険者ギルドで見せてもらった、ブルーフロッグの背中の皮を使ったすごく高いベッドって訳じゃないもん。
だからニコラさんがそんなこと言うなんて、僕は全然思ってなかったんだ。
「えぇ〜、でもでも、寝る時は使うんだからいいじゃないか」
「なっ、何を言ってるの。こんなベッドで寝られるわけないでしょ!」
その上こんなこと言うもんだから、僕はもっとびっくり。
慌ててそんな事ないよねってユリアナさんたちの方を見たんだけど、そしたら二人ともニコラさんとおんなじみたいでうんうんって頷いてるんだもん。
だから僕、前の宿屋さんじゃどうしてたの? って聞いたんだよ?
そしたら、そこにはこんなベッドは無かったんだよって言うんだ。
「私たちが泊まっていた宿の部屋にはね、ちょっと広めの長椅子のようにものに、ただ布が貼ってあるものがあっただけなのよ」
「その上で毛布にくるまって寝るのが普通だったもの。こんな上等なベッドなんて、怖くて寝られないわ」
ニコラさんたちが言うにはね、冒険者さんたちが泊まる宿屋さんだと、それでもいい方なんだって。
もっと安いとこに泊まってる人は、板の間に何にも敷かないで寝てる人たちもいるそうなんだ。
「そんな宿屋さん、あるんだ」
「そうよ。だからね、私たちの常識からすると、ここは何もかもが上等すぎるのよ」
そう言って困ったような顔で笑うニコラさん。
でもさ、だとするとちょっと困っちゃうんだよね。
だって僕、バーリマンさんにもう頼んじゃったもん。
「でもでも、工事が終わったら僕んちに住むことになるんだよ?」
「えっ? ええ、それは解ってるけど、それがどうかしたの?」
「僕、バーリマンさんにどんな家具、入れたらいい? って聞かれたもんだから、この宿屋さんくらいでいいんじゃないかなぁ? って言っちゃったんだ」
最初は村にある僕んちくらいにしようと思ったんだよ?
でもバーリマンさん、僕んち肉た事ないでしょ?
だからいっつも泊まってる、この『若葉の風亭』とおんなじくらいでいいんじゃないかなぁって思ったんだ。
だってここのだって、あのお家に置いてある家具よりは安いだろうなぁって僕、思ったんだもん。
「それじゃあ、まさか……」
「うん。ニコラさんたちのお部屋も、ここと同じような感じになると思うよ」
それを聞いたニコラさんたち三人は、びっくりしたようなお顔で固まっちゃったんだ。
お姉さんズの受難(笑)は、まだまだ続きます。
なにせ今はまだ素泊まり状態、それもこの部屋の中だけの話ですからね。
部屋にある椅子やベッドでこの状態なのに、食堂に言ったらどうなる事かw
大商人や一部の貴族も使う場所ですから、調度品は当然この部屋より上質です。
因みに最初ルディーン君が訪ねてきた時にニコラさんがなぜあんな対応をしたのかですが、あれはこの宿の従業員が訪ねてきたのではないかと考えたからです。
彼女からすると、こんな上等な宿の従業員と言うだけで、どんな対応をすればいいのか解らないとても怖い存在だったりするんですよ。
なので、ベルの音を聞いてビビりまくったと言う訳です。
さて、次回更新なのですが、職業柄お盆前はとても忙しいんですよ。
その上日月と出張が決まっているので、そん準備などで書く時間が全く取れません。
ですからすみませんが月曜日の更新はお休みして、次回は13日の金曜日更新となります。